大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)2365号 判決 1972年11月30日

原告 中本勇

被告 丸善電機株式会社

右訴訟代理人弁護士 山崎昌穂

同 小林昶

右訴訟復代理人弁護士 川上博子

同 門前武彦

被告 吉野川電線株式会社

右訴訟代理人弁護士 増井俊雄

主文

一、被告丸善電機株式会社が、訴外三和商工社こと梅沢宏次こと梅沢浩に対する大阪地方裁判所昭和四四年(手ワ)第二、一〇六号事件の手形判決の執行力ある正本に基づき、昭和四五年五月一日別紙第一物件目録記載の物件に対してなした強制執行を許さない。

二、被告吉野川電線株式会社が、訴外三和商工社こと梅沢広次こと梅沢浩に対する枚方簡易裁判所昭和四四年(ロ)第一、〇一五号事件の仮執行宣言付支払命令正本に基づき、昭和四五年五月一日別紙第二物件目録記載の物件に対してなした強制執行を許さない。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

四、本件について当裁判所が昭和四五年五月八日になした強制執行停止決定(昭和四五年(モ)第一、四一五号)(なお、同決定の作成日付が昭和四四年五月八日とあるのは誤記と認める。)は、これを認可する。

五、前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文第一ないし第三項と同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

(被告両名とも)

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.被告丸善電機株式会社は、訴外三和商工社こと梅沢宏次に対する主文第一項記載の判決に基づいて、昭和四五年五月一日別紙第一物件目録記載の物件に対し差押をした。

2.被告吉野川電線株式会社は、訴外三和商工社こと梅沢広次に対する主文第二項記載の仮執行宣言付支払命令に基づいて、昭和四五年五月一日別紙第二物件目録記載の物件に対し差押をした。

3.しかしながら、右各物件(以下本件物件という。)は、もと訴外梅沢宏次こと梅沢広次こと梅沢浩の所有であったが、原告は昭和四五年四月二三日右訴外人に対し、金二七万円を、弁済期昭和四五年五月三日、利息年一割八分、利息支払期は元金弁済期と同日、遅延損害金日歩九銭八厘の約定で貸与し、その担保として右同日、これらの所有権を信託的に譲渡を受けるとともに、占有改定の方法によってその引渡しを受け、これらを同人に代理占有させていたものである。

4.よって原告は被告らが右各物件についてした右各差押の排除を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告丸善電機株式会社)

請求原因第一項は認め、第三項は否認する。

(被告吉野川電線株式会社)

請求原因第二項は認め、第三項は不知。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因第一および第二項の事実は各当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、同第三項の事実、ならびに、原告と前記訴外人との間の本件譲渡担保契約は、訴外人が弁済期に債務の履行をしなかった場合には、原告において、譲渡担保物件(本件物件ほか数点)を換価処分してその換価金をもって被担保債権の弁済に充て、もし剰余があればこれを訴外人に返還し、また換価金が被担保債権額に足らないときはその不足額をさらに請求することができる旨を内容とするいわゆる清算型譲渡担保であること、その後、訴外人は原告に対し右元利金の支払を全くしていないこと、本件物件の価額は金八万三、三〇〇円にすぎず、これを含む譲渡担保物件の価額が被担保債権額を下廻ることが明白であること、かような事実が認められるのであって、右認定を左右するにたる証拠はない。

二、右事実によれば、原告は本件物件の所有権を取得したことが明らかである。ただし、右所有権は、実質上原告の優先弁済権の確保を目的とするものにほかならないから、原告としては譲渡担保の目的を超えてその所有権を主張し得ないというべきであり、従って、右物件を債務者の所有としてこれに対し強制執行を開始した第三者がある場合に、もしその手続において、右物件が原告の債権を満足させるにたる価額で換価し得ることが確実に予想されるとすれば、原告がその所有権を主張して右第三者の強制執行の全面的排除を求めることは許されず、その権利主張は、自己の優先弁済権を主張してその債権の満足をはかる範囲に限られるべきものといえよう。しかし、本件の場合のように、譲渡担保物件の価額がその被担保債権額を下廻ることが明白な場合にまで、その担保機能のみを強調し、原告をして単に優先弁済を得させればよいとすることは、その債権担保の形式として所有権移転の形態に依った当事者の意思を無視するものであるばかりでなく、たとえ、右第三者の強制執行の続行を許したとしても、その第三者にとっては何ら得るところがない反面、原告に対しいたずらに清算を強いる結果となるだけであるから、原告にとって、右強制執行の全面的排除を求める必要がないとはいえないのであり、このような場合には、原告はその所有権を主張して右強制執行の全面的排除を求めることが許されるものと解するのが相当である。

そして、かく解したとしても、原告に必要以上の保護を与えることにはならないし、また、右第三者に何ら損害を及ぼすことにもならない。

三、そうだとすると、本件物件の所有権を主張し、これに対してなされた被告らの前記差押の排除を求める原告の本訴請求は、いずれも正当としてこれを認容すべきものであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、強制執行停止決定の認可およびその仮執行の宣言につき同法五六〇条、五四九条、五四八条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田延雄)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例